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読むことで得られる知識  
 ・実際の事例から見る、出向社員・派遣社員が関与する情報漏洩リスクの現状
 ・出向社員・派遣社員を含む「関係者リスク」をどう捉えるべきか
 ・関係者リスクへ向き合うための効率的なセキュリティ対策の考え方
  
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 ・社内システム内の個人情報に 誰が・いつ・何を見たかを把握
 ・守りたいデータにフォーカスした対策

 専門性の確保や業務効率化の観点から、出向社員や派遣社員、協力会社のメンバーを受け入れることは、 今や多くの企業にとって特別なことではありません。

 一方で、「社外の人が社内システムに触れる」状況が増えることで、情報漏洩や不正持出しといったリスクについて、どこまで想定し、どのように向き合うべきか悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。

 自社社員と同じ権限を付与してよいのか、厳しく制限しすぎると業務が回らなくなるのではないか――。出向社員・派遣社員を取り巻く情報セキュリティの課題は、単純なルール設定だけでは整理しきれない側面を持っています。

 本コラムでは、出向社員・派遣社員が関与する情報漏洩リスクを整理するとともに、具体的な事例を交えながら、関係者リスクへの向き合い方やセキュリティ対策のポイントについて考えていきます。

 出向社員や派遣社員は、雇用形態や契約上の立場こそ異なるものの、日々の業務においては正社員と同様にシステムを利用し、データを扱う存在です。そのため、情報漏洩リスクを考える際には、「社内の人間か、社外の人間か」という単純な区分ではなく、「どのような立場で、どの範囲の情報に触れているのか」という視点が重要になります。

 いわゆる関係者リスクとは、外部からのサイバー攻撃とは異なり、正規の権限を持つ利用者によって発生し得るリスクを指します。出向社員や派遣社員、外部委託先、協力会社といった関係者も、この枠組みの中で整理されます。

 情報漏洩というと、意図的な不正持出しを想起しがちですが、実際には、業務上必要な操作の延長でデータを取得し、その扱いが適切でなかった結果として漏洩につながるケースも考えられます。権限が広すぎた、利用目的が曖昧だった、管理の前提が共有されていなかったといった点が重なることで、リスクが顕在化する可能性があります。

 このように、出向社員・派遣社員による情報漏洩リスクは、個人の資質や善悪だけで語れるものではなく、組織としての管理の在り方と密接に関係しているといえます。

 出向・派遣社員が関与する情報漏洩リスクは、必ずしも高度な不正や悪意によるものだけではありません。 実際の事例を見ると、業務上必要なデータの取り扱いが、管理上の抜けや権限設計の不十分さと重なることで、情報持出しにつながることもあります。

 その一例として、2025年7月に日本生命から三菱UFJ銀行へ出向していた社員が、銀行の社外秘資料を無断で持ち出し、自社内で共有していた事案が報告されています。営業評価や商品戦略などの機密資料が、出向先の共有フォルダから取得され、業務用メールを通じて社内に拡散していました。発覚は偶然であり、アクセス権限の過剰付与やログ監査の不十分さが背景にあったと指摘されています。

                 出典:日経電子版 :日本生命の出向社員、三菱UFJ銀行の情報持ち出し 営業部門に共有
                   https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB159IY0V10C25A7000000/

 さらに、2025年11月には日本生命保険の完全子会社であるニッセイ・ウェルス生命保険の出向者が、三井住友銀行およびみずほ銀行への出向中、2019年4月から2025年4月までの間に合計943件の内部情報を無断で持ち出していた事例も明らかになっています。出向先の販売方針や評価基準などの内部情報を、スマートフォンで撮影するなどして自社に共有し、営業活動に活用していたとされています。
 日本生命は本件について、出向者へのコンプライアンス意識や教育の不十分さを要因として挙げています。また、出向先や他社の情報を自社に共有することが期待されていたことも示されています。社内では、「適切な手段での情報収集を推進していた」とされていますが、結果として、「適切な手段」の範囲や判断基準の境界が現場で曖昧になっていた可能性も考えられます。

                 出典:日経電子版 : 銀行出向者の情報漏洩、ニッセイ・ウェルス生命も 943件が判明
                     https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB184KZ0Y5A111C2000000/

 これらの事例が示しているのは、契約やルールを定めることはもちろん重要ですが、それだけでは、出向・派遣社員による情報持出しリスクを十分に抑えることが難しいケースもあるという現実が、事例からうかがえます。個人の意図だけでなく、権限設計や情報管理の在り方、組織としての前提や期待が、リスクの顕在化に大きく影響していることが分かります。

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 出向社員・派遣社員を受け入れる際、まず検討されるのは契約やルールの整備です。特に重要なのは、出向・派遣元の会社との契約と、出向者・派遣者本人との契約の双方において、情報の取り扱い方法や違反時の対応を明確に定めることです。これにより、業務上の義務や判断基準、責任の範囲が明文化され、万一のトラブル時にも迅速な対応が可能になります。

 契約やルールを定めるだけではなく、確実な周知と定期的な教育が欠かせません。出向社員や派遣社員が契約・ルールを理解し、自身の業務にどのように適用すべきかを把握することで、リスクの未然防止につながります。また、定期的に契約やルールの見直しを行い、業務変更や組織変更に対応することも重要です。

 このように、契約・ルール・権限管理を前提としつつ、データアクセスの可視化を組み合わせることで、権限の範囲内での情報持出しリスクにも対応可能となります。実際のアクセス状況を常時把握・監査できる仕組みを整えることは、出向・派遣社員による情報漏洩リスクへの現実的な対策の一つです。

 次章では、具体的にデータアクセスの可視化がどのような効果をもたらすのか、どのように運用に組み込むことでリスク抑制につながるのかを整理していきます。

 

 出向・派遣社員や協力会社のメンバーを含む内部関係者が社内システムにアクセスする場合、契約やルールに基づく管理だけでは、権限の範囲内での情報持出しリスクを完全に抑えることは難しいのが現実です。そこで重要になるのが、データアクセスの可視化です。アクセスの可視化により、誰が、いつ、どのデータにアクセスしたかを把握でき、潜在的なリスクを早期に検知することが可能になります。

 具体的には、アクセスログの取得や操作履歴の監査を行うことで、以下の効果が期待できます。

  • 不審なアクセスを早期に把握し情報の持ち出しを未然に防止
  •  監査されていることによる心理的抑止効果
  • 権限付与の過不足や業務フローの見直しポイントなど実務運用での改善点の把握

 このように、データアクセスを可視化してリスクを把握することで、権限の範囲内に潜む情報漏洩リスクへの対応が可能になります。過度なアクセス権限管理による業務効率の低下を避けつつ、契約・ルール・権限管理と組み合わせた現実的なリスク抑制を実現できます。また、出向・派遣社員や協力会社など、社外の関係者を含む組織全体の情報管理を強化する基盤としても活用できます。

 

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 前章で触れたように、出向・派遣社員や協力会社などの社外関係者を含む組織では、契約・ルール・権限管理とデータアクセスの可視化を組み合わせることが、権限の範囲内に潜む情報漏洩リスクへの現実的な対応につながります。

 本章では、この前提を踏まえ、業務効率を損なわずに行う具体的なセキュリティ対策として、BlackBoxSuiteで実現できる機能とその活用ポイントを整理します。

 BlackBoxSuiteで実現できる主な機能

  • アクセスログの取得と追跡
    いつ・誰が・どのデータにアクセスしたかを詳細に記録し、ログとして管理できます。これにより、組織内の情報利用状況を常時把握できます。
  • 不審なアクセスの自動検知
    記録されたアクセスの中から、不審なアクセスを自動で検知し、担当者にアラート通知することが可能です。監査作業やリスク把握の効率化に役立ちます。
  • リスクの可視化・モニタリング
    データアクセス状況を可視化するモニタリング画面で、リスクのあるアクセスやユーザーを一目で確認できます。

 これらのBlackBoxSuiteの機能を組み合わせることで、業務効率を損なわずに出向・派遣社員や協力会社などの、社外関係者を含む組織全体の情報管理体制を強化できます。

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 出向・派遣社員や協力会社など、社外関係者を含む組織では、情報漏洩や不正持出しのリスクは完全にゼロにはできません。しかし、リスクの存在を正しく認識し、組織として向き合う姿勢を持つことが重要です。

 関係者リスクに向き合うための考え方

  • 契約・ルールの明確化
    出向・派遣元企業との契約や個々の出向者・派遣者との契約で、情報取り扱いや違反時の対応を明確化します。法的・運用上の基盤を整備することができます。
  • 意識醸成と定期教育
    契約やルールだけではリスクを完全に防げません。組織内外の関係者に対して定期的な教育や注意喚起を行うことで、情報セキュリティ意識の向上と心理的抑止につなげられます。
  • アクセスの可視化による運用管理
    過度な権限制限だけでは業務効率が低下します。データアクセスの可視化を組み合わせることで、権限内の操作を含め、誰がどの情報にアクセスしているかを把握でき、潜在的なリスクへの早期対応や運用改善につなげられます。
  • 継続的な見直し
    契約内容やルール、権限設計、監査体制は、業務や組織の変化に応じて定期的に見直すことが求められます。状況に応じた柔軟な対応が、リスク管理の実効性を高めます。

 関係者リスクへの対応は、個別の担当者や部署だけで完結するものではありません。経営層、情報システム部門、内部統制・監査部門が連携し、リスクの可視化、教育、運用改善を一体的に行うことが、情報漏洩や不正持出しの未然防止につながります。心理的抑止や運用改善を含めた包括的なアプローチが、社外関係者を含む組織全体のリスク管理の鍵となります。

 

 出向社員・派遣社員や協力会社など、社外の関係者が社内システムに関与する環境は、専門性の確保や業務効率化の観点から、今や多くの企業にとって前提となりつつあります。一方で、その利便性の裏側には、正規の権限を持つ関係者だからこそ生じる情報漏洩リスクが存在します。

 本コラムで見てきたように、実際に発生した内部関係者による情報の持出しは、必ずしも強い悪意や巧妙な不正によるものとは限りません。業務上の期待や慣習、判断基準の曖昧さと、情報にアクセスできる環境が重なり合うことで、結果として情報漏洩に至るケースも少なくありません。契約やルールの整備は重要な前提条件ですが、それだけでリスクを完全に抑えることは難しいのが現実です。

 だからこそ、契約・ルール・アクセス権限管理を基盤としつつ、実際に行われたデータアクセス状況を可視化し、運用の中でリスクを把握・管理していく視点が求められます。誰が、いつ、どの情報にアクセスしているのかを把握できる状態を整えることで、権限の範囲内に潜むリスクにも気づきやすくなり、過度な制限による業務効率の低下を避けながら、現実的なリスク抑制につなげることが可能になります。

 関係者リスクへの対応は、特定の担当者や部署だけで完結するものではありません。経営層、情報システム部門、内部統制・監査部門が連携し、契約や教育、運用管理、可視化を継続的に見直していくことが重要です。リスクを「排除すべき例外」として扱うのではなく、「前提として向き合い、管理していく対象」と捉える姿勢が、出向社員・派遣社員を含む組織全体の情報管理を強化する第一歩となるでしょう。

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