コラム

内部不正対策の未来:リスクの可視化から「行動予測」へ
内部不正による情報漏洩は、「気づいたときには手遅れだった」というように、事後になって発覚するケースがしばしば話題に上がります。しかし、実際に情報漏洩や持ち出しが発生してしまうと、企業にとって甚大な影響を及ぼす可能性があります。
では、私たちはどのようにして「起きてしまった不正への事後対応」から、「起きる前の段階で兆候に気づける仕組み」へと近づいていけるのでしょうか。
AI分析やログ分析技術の進展により、内部不正対策はこれまでの“リスクの可視化”にとどまらず、“行動の変化を捉える”方向へと進化していくとも考えられています。ユーザーの行動分析やリスク兆候の把握、リスク予測の試みなど、テクノロジーを活用したアプローチが注目される背景には、増え続けるログを人手で監視することの限界があるともいえます。
本コラムでは、従来の対策から一歩進んだ「行動予測」型内部不正対策の方向性と、その実現に必要となるアクセスログ基盤、さらにAI分析をはじめとしたテクノロジーをどのように活用し得るかについて解説します。
目次
1. 内部不正対策の変遷と、いま求められる視点
企業の内部不正対策といえば、アクセス権限の管理や外部デバイスの利用制限、メール添付の禁止といった「アクセスや操作を制限する対策」がまず思い浮かぶのではないでしょうか。これらの対策は確かに重要であり、多くの組織で情報漏洩リスクを減らすための基盤として長く利用されています。
また、ログを活用した監査を組み合わせるケースも見られます。特に、過去の事例や固定的なルールをもとに定義した条件に合致する操作やアクセスを検知する、いわゆるルールベース型の監査が一般的です。この方法は、事前に想定したパターンの検知には有効ですが、組織ごとに多様化する業務環境やユーザーごとの行動をすべて網羅できるわけではないため、ルールに合致しない行動は見過ごされる可能性があります。
実際の現場では、正規の権限や通常業務の範囲内で行われた操作がリスクにつながるケースも少なくありません。こうした“業務の延長線上に潜むリスク”は、表面的には通常操作と変わらないため、従来のアクセス制御やルールベース監査では検知が難しい場面が生じます。こうした状況が蓄積することで、「気づいたときには重要な情報が持ち出されていた」という事態につながる可能性もあります。
こうした背景から、日々蓄積されるアクセスログをもとに通常行動との“逸脱”に着目し、通常時との違いを読み取る視点が求められつつあります。アクセスや操作が形式的に正しいかどうかだけではなく、「その利用者にとって自然な行動なのか」「普段と比べて違和感がないか」といった変化を捉えることで、より早い段階でリスク兆候を把握できる可能性が広がります。
2.AI分析・行動分析が示す「行動予測型」内部不正対策の方向性
前章で述べたように、従来の内部不正対策では「アクセスの制御」や「定義済みルールによる監査」が主要な手段として利用されてきました。これらは現在も重要な役割を担っていますが、ログ量の増加や業務環境の多様化により、固定的なルールだけでは把握しきれない行動が生じる場合もあります。こうした背景から、近年では AI分析や行動分析を活用し、ユーザー行動の“変化”に注目するアプローチが検討されるようになっています。
行動予測型の内部不正対策は、単に「アクセスされた/されていない」といった点ではなく、ユーザーごとの通常行動を学習し、そのパターンからどの程度逸脱しているかに目を向ける考え方です。
例えば、以下のような観点が参考になると考えられています。
- 過去(通常時)の業務ログの傾向
日々のアクセス時間帯、利用する画面やファイル、操作の種類などから“平常時”の行動パターンを把握することで、どのような行動が通常であるかを明確にできます。これにより、小さな違和感も変化として捉えやすくなります。 - アクセスパターンの変化
急なアクセス時間帯の変化(深夜・早朝・業務時間外など)、閲覧対象データの急増、通常とは異なるフォルダへのアクセスなど、パターンの変化に着目することで、早い段階で兆候を把握できる可能性があります。 - 職務と行動の不整合
担当業務と関連性の薄いデータへのアクセス、権限内であっても職務上必要性が乏しい情報の閲覧などは、背景にリスクが潜んでいる可能性があります。
これら複数の観点を組み合わせ、ログから導かれる「違和感のある行動」をスコアリングすることで、リスクの高まりを早期に察知する方向性が注目されています。
従来のように“起きた後の記録”を調べるのではなく、「行動の変化」を捉えることで、より早い段階で注意喚起につなげようとする考え方です。
AI分析は、膨大なログから人では見つけにくい行動パターンや数値的な変化を捉えることができ、特に通常業務と不正行動の境界が曖昧なケースにおいて補助的な役割を果たすと考えられます。こうした技術の発展により、“不正そのもの”ではなく“兆候”を把握しようとする内部不正対策のアプローチが広がりつつあります。
3. 行動予測の前提となる“アクセスログ基盤”の重要性
こうした行動の変化を正確に捉えるには、普段の操作がどのように記録されているかが重要であり、その前提となるのが“アクセスログの基盤”です。AI分析や行動分析は、あくまでデータをもとに変化や逸脱を検知する仕組みであり、元となるログが不十分であれば、リスク兆候を把握することも困難になります。
ここでいうアクセスログとは、「誰が、いつ、どこで、どのデータに対して、どのような操作を行ったのか」を詳細に記録したものを指します。ユーザーのデータアクセスや操作履歴、システム利用状況などを漏れなく蓄積することで、通常時の行動パターンを把握し、異常な動きを検知することが可能なデータとなります。
また、取得したログは単に量が多いだけでなく、信頼性も重要です。証跡として後から参照可能であること、 操作の内容や対象が正確に記録されていることが、内部不正対策における基盤の信頼性につながります。信頼できるログ基盤があれば、AI分析による行動予測やリスクスコアリングの精度も向上し、管理者はより早期に注意を払う必要のある兆候を把握できるようになります。
さらに、アクセスログの蓄積は、過去の傾向分析やパターン学習にも活用されます。通常業務の範囲内で行われる操作や権限内のアクセスも含めてデータを取り込み、時間や対象、操作の種類などの変化を学習することで、従来のルールベースでは見過ごされがちな“微細な異常”も検知しやすくなります。
このように、行動予測型内部不正対策の効果は、ログ基盤の充実度に大きく依存します。日々の業務で蓄積されるアクセス情報を正確に管理・活用することが、リスク兆候の早期発見と、未然防止につながる重要なステップとなります。
BlackBoxSuiteでは、アクセスログを詳細に記録し、
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4. 過去ログとアクセスパターンから見えるリスク兆候
行動予測型の内部不正対策とアクセスログ基盤を踏まえると、単に過去の操作記録を蓄積するだけでなく、実務で「リスク兆候」として把握できる状態にすることが重要です。
例えば、営業担当者が権限内で顧客情報のデータベースにアクセスしている場合を考えてみます。通常は、自分が担当する顧客の情報を閲覧・更新する操作が中心です。しかし、最近になって頻繁にデータをダウンロードしたり、しばらくアクセスしていなかった過去の顧客情報を参照するようになった場合、表面上は権限内の操作であっても、情報漏洩の潜在的な兆候として捉えることができます。こうした微細な逸脱や普段との違いを把握することで、管理者は「まだ明確な不正ではないが、注意が必要なユーザー」として重点的に監視できるようになります。
ほかにも、以下のようなリスク兆候が挙げられます。
- 平常業務の時間帯に行われているが、通常は異なる時間のアクセスしているパターン
例:普段は午前にアクセスしているデータに、最近急に終業時間間際にアクセスするようになった。 - 権限内のデータを扱っているが、操作の順序や回数がいつもと微妙に異なるパターン
例: いつもは操作しないデータ形式(CSVやPDFなど)でデータを出力している。 - 普段は触らないファイルやフォルダにアクセスしているが、担当業務と完全に無関係ではないパターン
例: 通常アクセスしない過去の顧客情報を頻繁に閲覧している。 - 複数の関連部署のファイルに同時にアクセスしているが、業務上必須ではないパターン
例:もともと社内共有フォルダの閲覧履歴が少なかった社員が、急に複数の営業関連資料を参照するようになった。
これらの微細な変化は、AI分析や行動分析によって効率的に把握されます。平常時のアクセスパターンを学習させ、逸脱度合いをスコアリングすることで、管理者は優先的に確認すべき行動を明確にできます。スコアの高い行動はアラートとして提示され、日常業務との照合を通じてリスクの有無を判断することが可能です。
過去ログやアクセスパターンを記録確認だけに留めず、「行動の微細な変化」を可視化することで、従来のルールベース監査では見落とされやすい権限内・通常業務内の潜在的リスクも把握できます。これにより、管理者は早期に注意すべき兆候を察知し、未然防止につなげることが可能になります。
5. 内部不正対策を支えるAI技術の活用
前章で述べた通り、潜在的なリスク兆候は微細で、従来のルールベース監査では見落とされやすいものです。行動予測型の内部不正対策では、AI分析や行動分析を活用して、こうした兆候を効率的に把握することが注目されています。ここでは、実務で特に役立つAIの機能例を示します。
- アノマリ検出(Anomaly Detection)による異常行動検知
普段の業務パターンから逸脱した操作を自動で検知します。
通常は午前に閲覧するデータへ終業間際にアクセスが集中した場合など、不自然なタイミングの変化を察知できます。 - 行動パターン分析(Behavioral Analysis)によるユーザー行動分析
日常的な操作傾向を学習し、微細な変化を可視化します。
普段は閲覧が中心だった担当者が、急に更新やダウンロード操作を増やすといった変化を把握できます。 - 時系列分析(Time Series Analysis)による傾向把握
アクセスや操作履歴を時間軸で分析し、異常な傾向や変化を把握します。
短期間でのアクセス量の急増や、特定データへの参照が不自然に集中しているといった動きを捉えやすくなります。 - クラスタリング(Clustering)による行動グループ分析
似た行動パターンのユーザーをグループ化し、逸脱者を特定します。
同じ部署の中で一部のユーザーだけが特定データを繰り返し扱っているような状況を抽出できます。 - リスクスコアリング補助(Risk Scoring Support)による優先確認の明確化
各行動のリスク度合いをスコア化し、優先確認対象を提示します。
通常扱わないデータへのアクセスと、短時間の大量操作が重なっている場合、相対的に高リスクとして把握できます。 - パターン認識(Pattern Recognition)による未知リスクの抽出
過去の不正操作や異常傾向を学習し、未知の兆候を検知します。
過去の情報持ち出し事例に似た操作の組み合わせが現れた際に、潜在的な兆候として抽出できます。
これらの技術を組み合わせることで、表面上は権限内の操作であっても、
「普段とどこが違うのか」「業務フローからどの程度逸脱しているのか」
を多面的に分析でき、通常業務の影に隠れがちな潜在リスクをより早い段階で把握できるようになります。
なお、AI分析は万能ではなく、業務特性によっては誤検知が発生する可能性もあるため、運用設計と合わせて活用することが重要です。
6.行動の違和感を逃さない仕組みづくり
行動予測型の内部不正対策を実務で機能させるには、微細な変化を正確に捉えられる基盤が重要ですBlackBoxSuiteでは、その基盤として次のような機能を提供しています。
- 網羅的なアクセスログ取得
「誰が・いつ・どの端末で・どのデータに・どのような操作を行ったか」を包括的に記録します。AI分析のもととなる高精度なログを、漏れなく取得できます。 - AI分析・リスク検知
過去のアクセス履歴や行動パターンを学習し、通常とは異なる操作や異常アクセスを自動検知。未知のリスクや潜在的な内部不正の兆候も早期に把握できます。 - ダッシュボードによる可視化
ログ分析結果をモニタリング画面に表示します。リスクのあるアクセスやユーザーを一目で把握できるため、効率的な監査運用が実現できます。 - アラート機能
高リスクなアクセスや異常行動を検知した際には、担当者にアラートを通知します。迅速な対応を支援し、重要なインシデントを見逃さない運用が可能です。
これらの機能により、日々の業務に紛れやすい“わずかな違和感”を確実に捉えられるようになり、内部不正の早期発見と適切なリスク対応につながります。権限内で行われる操作であっても、その裏に潜む変化を見逃さない仕組みを備えることで、組織全体のセキュリティレベルを高めることができます。
7.まとめ:内部不正対策は「見える化」から「予測」へ
内部不正は、多くの場合、明確な行為として表面化する前に、小さな兆候が日常業務の中に紛れ込むことがあります。アクセス権限の制御やルールベース監査だけでは、こうした微細なサインを捉え、不正を未然に防ぐことが難しい場面もあります。
行動予測型の内部不正対策では、ログの確認にとどまらず、蓄積されたデータから行動の揺らぎを把握し、早期に注意すべきポイントを可視化することを目指します。こうしたアプローチは、見過ごされがちだった権限内の操作や通常業務の延長に潜むリスクにも気づきやすくなるという利点があります。
内部不正のリスクは、特定の個人の悪意だけで生じるものではなく、環境の変化や心理的要因、組織の管理体制の隙間から生じることもあります。だからこそ、 「起きる前の兆候をとらえる体制」を整えることが重要になります。
その体制を支えるのが、正確なアクセスログ基盤と、そこから得た情報を適切に活用する仕組みです。限られたリソースでも、重要な変化を効率よく把握できる環境を整えることで、実効性の高いリスク管理につながります。
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