「自社ではアクセス権限の管理を徹底している。だから内部不正や情報漏洩のリスクは低いはずだ」──情報システム部門やセキュリティ責任者の多くが、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。

 一方で、内部不正や情報漏洩に関する報道を目にするたびに、「本当にそれで十分なのだろうか」「同じことが自社で起きないと言い切れるだろうか」と、心のどこかで不安を感じている方も少なくないはずです。

 アクセス権限は本来、業務を円滑に進めるための“手段”です。しかし、その権限が特定の条件下で“武器”に変わる瞬間があるとしたら──。

 本コラムでは、内部不正がどのようなメカニズムで起こり得るのかを、アクセス権限管理や組織構造の観点から紐解きます。

 内部不正という言葉から、多くの人は「最初から不正を行う意図を持った人物」を想像しがちです。しかし、実際の内部不正は、必ずしも明確な悪意や犯罪意識から始まるとは限りません。

 業務上の役割(ロール)に基づいて必要なアクセス権限を持ち、日常的にシステムへアクセスする中で、権限内で自由にデータにアクセスでき、誰のチェックも受けずに操作できる状況が徐々に積み重なります。その結果、「情報を持ち出しても発覚しないのではないか」という意識が芽生え、不正行為や情報漏洩につながる可能性があります。

 特に大規模な組織では、業務効率やスピードを重視するあまり、広範囲なアクセス権限が付与されることもあります。権限の集中や監視の不十分さといった組織構造上の盲点が、誰でも起こし得る状態を生み出してしまうのです。

 内部不正は特定の人物の倫理観だけの問題ではなく、ロール管理や権限管理、その運用を含む組織構造の中に、どのようなリスクが潜んでいるのかを見抜く視点が重要です。この章で確認した「アクセス権限があるからといって安全ではない」という認識が、次章での具体的なリスクの理解につながります。

 前章で述べたように、アクセス権限の集中や監視不足は、不正が起こりやすい状態を作ります。しかし、アクセス権限とはあくまで「システム上でその操作を許可する」という意味に過ぎず、常に業務上正しい操作や適切な行動を保証するものではありません。

 例えば、顧客情報や企業の機密情報にアクセスできる権限を持つ担当者が、業務上必要な範囲を超えて情報を閲覧した場合でも、システム上は許可された操作として処理されます。アクセス権限内の操作であれば、正しいユーザーとして扱われるため、外部からは不正行為として検知されにくいのです。

 このように、権限そのものがあることで不正の発見が遅れる可能性があります。知らないうちに不適切な行為が積み重なると、後から確認した際に情報漏洩の範囲が広がっている、といった事態も起こり得ます。

 ここまでの内容からわかるように、アクセス権限があるだけでは安全とは限りません。次章では、これを踏まえて「権限管理だけでは防ぎきれないリスク構造」について詳しく解説し、アクセス権限がどのように組織全体のリスクにつながるのかを見ていきます。

 多くの企業では、ロールごとのアクセス権限の設定や付与・削除など、いわゆる「アクセス権限の管理」が行われています。これは内部不正対策の基本であり、情報システムを安全に運用するうえで欠かせない取り組みです。

 しかし、ここまでで述べてきたように、アクセス権限の管理だけでは、組織全体に潜む正規権限内での不正行為や情報漏洩のリスク構造を完全に把握し、防ぎ切ることは難しい場合があります。アクセス権限の集中や放置、形式的な管理といった運用上の盲点が積み重なることで、表面的には権限管理が整っているように見えても、内部不正が発生しやすい状態が生まれてしまうのです。

 こうしたリスク構造は、主に次のような形で組織内に存在します。

  • 正規権限を持つ社員による操作
    正当なIDとアクセス権限による操作は、形式上は問題のない業務行為として扱われます。そのため、業務上の必要性を超えたデータの閲覧や取得であっても、権限管理の枠内では異常として捉えにくく、結果として発見が遅れる可能性があります。
    特に、日常的に行われる操作であるほど、「いつも通りの業務」として見過ごされやすく、不正や不適切な行為が水面下で蓄積してしまう点が、このリスクの特徴と言えます。
  • アクセス権限の集中
    特定の業務を担当できる人が限られていることや、業務を止めないための現場判断の積み重ねにより、一部の担当者に広範なアクセス権限が集中することがあります。こうした状態は、運用上やむを得ない場合もあります。
    しかし、権限が集中すると、その人物の操作一つひとつが広い範囲に影響を及ぼす可能性を持つようになります。監視や権限の見直しが十分に行われていない場合、利便性の裏側でリスクが拡大しやすい構造になってしまいます。
  • 人員・業務の変化に合っていないアクセス権限
    退職や異動、業務内容の変更後もアクセス権限が更新されず、実際の業務と合わない権限が残っているケースも考えられます。こうした権限は日常業務では意識されにくい一方で、組織の中に静かに残り続けるリスク要因となります。
    結果として、不要な権限が内部不正や情報漏洩の入口となる可能性を内包したまま放置されてしまう点は、見過ごせない課題です。

 アクセス権限管理の実施自体は重要ですが、それだけでは「正規のアクセス権限内での不正」や「見えにくい情報漏洩」を防ぐことは難しいのです。この状況を理解したうえで、次章では形式的な対策が抱える落とし穴を具体的に見ていきます。形式だけの運用では、リスクが潜在したまま残ってしまう危険性があるためです。

 

 前章では、権限管理を行っていても、正規のアクセス権限内での不正行為や情報漏洩に関するリスクが、組織の構造や運用の中に残り得ることを整理しました。

 しかし、そうしたリスクが存在していたとしても、日常業務の中で問題として表面化していなければ、その存在自体を十分に把握できていない場合も考えられます。

 特に、目立った事故や不正が発生していない状況では、「現行の対策は機能している」「大きな問題は起きていない」と受け止められやすくなります。これは対策を怠っているというよりも、リスクが顕在化していないことによる自然な認識と言えるでしょう。

 一方で、そのリスクが表面化した時にはすでに手遅れになっている可能性があります。問題が明らかになるのは、情報が持ち出された後や、不適切な操作が続いた後であるケースも考えられます。

 ここまでで述べてきたように、権限管理は重要な対策ではありますが、「誰に何を許可するか」を定める仕組であり、業務上は正当とされるアクセス権限の範囲内で行われる不正や不適切な操作を防ぐことはできません。そのため、権限管理を実施していても、権限内の内部不正や情報漏洩のリスクは残ってしまいます。

 では、こうしたリスクにどのように向き合うべきなのでしょうか。

 一つの視点として、アクセス権限の有無だけで判断するのではなく、実際にどのようなアクセスや操作が行われているのかを把握することが挙げられます。次章では、正規権限内のアクセスをどのように捉え、管理していくことが有効なのかについて整理していきます。

 

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 前章までで見てきたように、アクセス権限管理を行っていても、正規権限内で行われる操作の実態までは把握できません。そこで重要になるのが、アクセス権限の有無だけでなく、その権限が実際にどのように使われているのかを把握する視点です。

 実際のアクセス状況を把握することで、内部不正や情報漏洩につながり得る行為の兆候を早い段階で捉え、問題が顕在化する前に対応できる可能性が生まれます。これは、不正が起きた後に原因を追及するためではなく、リスクが表面化する前に気づくための取り組みです。

 この視点を支える情報のひとつがアクセスログです。アクセスログとは、誰が・いつ・どこで・どのデータに対して・どのような操作を行ったのかを詳細に記録した情報を指します。

 多くの企業では、何らかの形でログを取得しているケースも見られます。一方で、取得しているログの粒度が十分でなかったり、蓄積されているものの確認や分析に十分活用されていなかったりする場合も少なくありません。その結果、ログが存在していても、実際の利用状況の把握につながっていない可能性があります。

 アクセスログは、社内で行われている データアクセスを把握するための手がかりとなります。

  • 誰が、どの情報に、どの程度の頻度でアクセスしているのか
  • 不審な操作が行われていないか
  • 通常とは異なる時間帯や方法での利用が続いていないか

 こうした視点でアクセスログを捉えることで、アクセス権限管理だけでは見えなかった利用状況を把握することが可能になります。

 また、アクセスが記録され、いつでも確認できる状態にあるという前提は、特定の人物を疑うためのものではありません。「誰も見ていない状態」を作らないことで、組織全体として健全な利用環境を維持するための仕組みとして機能します。

 整理すると、アクセス権限の管理が「できることを定義する仕組み」であるのに対し、アクセスログの取得・監視は「実際に行われたことを把握するための仕組み」と言えます。両者を補完的に捉えることで、正規権限内で起こり得る内部不正や情報漏洩への視点が、より現実的なものになります。

 次章では、不正や情報漏洩が起きていない今だからこそ、組織としてどのような構造を見直すべきかを整理していきます。

 内部不正や情報漏洩のリスクは、問題が表面化していない段階でも日常業務の中に潜んでいる可能性があります。特に正規権限内で行われる操作は、業務として成立しているため、問題が表面化するまで気づきにくい特徴があります。

 だからこそ、不正が起きていない今の段階で、自社のロール設計や権限、運用の構造を見直すことが重要です。リスクが顕在化する前に、組織として「誰も見ていない状態」がないか、権限や運用のバランスが適切か、といった視点で確認することが、潜在的な問題を抑えるきっかけになります。

 BlackBoxSuiteは、権限管理やアクセス制御だけでは把握しきれない、正規権限内のアクセスを含むすべての操作を可視化する仕組みを提供します。アクセスログを詳細に記録・分析し、不審な操作や通常と異なる利用パターンをリアルタイムで把握できるため、管理者は事故が発生する前に適切な対策を講じることができ、組織全体の情報セキュリティを高めることにつながります。

 製品の導入によって、実際に事故が起こる前にリスクを可視化・検知し、未然に対応できる環境を整えることが可能です。権限管理だけでは見えなかったアクセス状況を把握することは、組織全体の透明性と健全性を高める重要な一歩と言えるでしょう。

 

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 アクセス権限は本来、業務を円滑に進めるための手段ですが、特定の条件下では“武器”に変わる可能性があります。内部不正や情報漏洩は、必ずしも明確な悪意から始まるわけではなく、日常業務の中で権限や運用の構造に潜むリスクが引き金になることも少なくありません。

 本コラムでは、次の点を整理してきました。

  • 内部不正は「悪意のある人」だけの問題ではなく、アクセス権限や組織構造が影響する可能性がある
  • アクセス権限があるからといって、その操作が常に正しいとは限らない
  • アクセス権限の管理だけでは、正規権限内で行われる不正や情報漏洩を完全に防ぐことは難しい
  • 形式的な対策や管理だけでは、潜在的なリスクは残る可能性がある
  • アクセス状況を把握し、継続的に監視することがリスクの早期発見につながる
  • 不正や情報漏洩が起きていない今だからこそ、組織や運用の構造を見直すタイミングである

 これらを踏まえると、アクセス権限やその管理の仕組みが日常的に機能しているかを確認するとともに、権限管理と併せてアクセス状況を把握することが重要です。

 表面上の運用だけで安心するのではなく、アクセス権限の分散やアクセスの把握、組織としての運用バランスなど、自社のリスク構造を客観的に振り返る姿勢が、内部不正や情報漏洩を未然に防ぐ第一歩となります。

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