ゼロトラストという言葉を耳にする機会は増えていますが、実務の中で、具体的にどのような点を見直すべきかを明確に整理できているでしょうか。特に、日々取得しているログについては、依然として「監査対応のための証跡」「インシデント発生後の調査資料」といった認識のまま運用されているケースも少なくないと考えられます。

 しかし、ゼロトラストの考え方に基づくセキュリティ運用では、ログは単なる記録ではなく、アクセスの適切性を継続的に判断するための重要な情報として位置づけられます。

 本コラムでは、ゼロトラストが広まった背景を整理しながら、従来のログの役割の限界と、ゼロトラスト時代におけるアクセスログの新しい意味について、実務視点で解説します。

 従来の企業システムは、社内ネットワークを中心に構築され、外部からの侵入を防ぐ「境界型防御」が基本とされてきました。このモデルでは、社内ネットワークの内側は比較的安全であるという前提のもと、主に外部からの脅威を遮断することに重点が置かれていました。

 しかし現在では、クラウドサービスの普及、リモートワークの定着、モバイル端末の業務利用の拡大などにより、業務環境は社内外を問わず広がっています。ユーザーやデータがネットワークの境界を越えて存在することが一般的となり、「社内だから安全」「社外だから危険」といった単純な区分は成立しにくくなっていると考えられます。

 こうした環境変化の中で提唱されたのが、ゼロトラストという考え方です。これは「Never Trust, Always Verify(決して信頼せず、必ず確認せよ)」を基本原則とし、社内外の区別なくすべてのアクセスを潜在的なリスクとして捉え、継続的な検証を前提に情報資産を保護するセキュリティモデルとされています。

 従来のようにネットワークの内側に入れば一定の信頼が与えられるという考え方とは異なり、ゼロトラストでは、誰がどこからアクセスしているかに関わらず、その都度アクセスの正当性を確認し続けることが重視されます。

 このように、ゼロトラストは単なるセキュリティ対策の強化ではなく、「信頼の置き方」そのものを見直す考え方であるといえます。では、この発想の違いは、従来のセキュリティモデルと比べてどのような点に現れるのでしょうか。

 前章で述べたように、ゼロトラストは「信頼の置き方」を根本から見直す考え方です。この違いを理解するためには、従来型のセキュリティモデルとの対比で整理することが重要です。

 従来の境界型セキュリティでは、「社内ネットワークは安全である」という前提のもと、外部からの侵入を防ぐことに重点が置かれてきました。この考え方では、社内のネットワークに入った後のユーザーやアクセスの監視は限定的になりがちでした。

 一方、ゼロトラストでは、場所やネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスを潜在的なリスクとして扱います。つまり、「どこからアクセスしているか」よりも、「誰が」「何に」「どのようにアクセスしているか」という観点でアクセスの正当性を判断することが重視されます。

 この違いは、アクセス管理の考え方にも大きな影響を与えます。従来は認証を通過した時点で一定の信頼が与えられていましたが、ゼロトラストでは、アクセスの都度、状況に応じた検証を行うことが前提となります。ユーザーの権限、利用端末の状態、アクセス先の情報資産の重要度など、複数の要素を組み合わせて評価することが求められるのです。

 このような考え方の変化は、セキュリティ対策の範囲にも影響を及ぼします。従来は主に外部からの侵入を防ぐことが中心でしたが、ゼロトラストでは、内部からの不適切なアクセスや情報の持ち出しといったリスクにも同等に注意を払う必要があります。そのため、内部不正対策の観点からも、すべてのアクセスを継続的に把握し、評価する仕組みが重要になると考えられます。

 そして、この継続的な検証を実現するうえで不可欠となるのが、アクセスの状況を詳細に記録し、可視化するためのログの存在です。では、従来のログはどのような役割を担い、どのような限界を抱えていたのでしょうか。

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 ゼロトラストにおいてログが重要視される理由を理解するためには、まず従来のログ活用がどのような位置づけにあったのかを整理する必要があります。

 従来、企業におけるログの主な役割は、「証跡の確保」にありました。システムへのアクセス履歴や操作履歴を記録し、インシデントが発生した際の調査や、監査対応のための根拠資料として利用することが中心であったといえます。

 このような活用方法は、コンプライアンス対応や事後検証の観点では重要な役割を果たしてきました。実際、多くの企業においてログ取得の目的は、「何か問題が起きたときに遡って確認できる状態を整えること」として整理されているケースが少なくないと考えられます。

 しかし、この証跡中心のログ運用には、構造的な限界も存在します。最大の課題は、ログが「事後対応のための情報」として扱われやすい点にあります。インシデント発生後に確認する運用では、不適切なアクセスや情報の持ち出しを未然に防ぐことは難しく、結果として被害の拡大を防ぎきれない可能性もあるとされています。

 さらに、従来のログ設計では、「誰が」「いつ」「どこにアクセスしたか」といった基本情報の記録に重点が置かれてきました。しかしゼロトラストの観点では、それだけではアクセスの正当性を判断する材料として不十分となる場合があります。アクセスの背景や文脈まで把握できなければ、ログは単なる記録としての価値にとどまってしまうためです。

 このように、従来のログ運用は証跡としての役割には適していたものの、「アクセスの適切性を継続的に判断するための情報」として活用するには限界があったといえます。

 では、ゼロトラストの考え方において、ログはどのような位置づけへと変化するのでしょうか。

 

 前章で整理したように、従来のログは主に証跡としての役割を担い、インシデント発生後の調査や監査対応を目的として多く活用されてきました。

 しかし、ゼロトラストの考え方においては、ログの位置づけそのものが大きく変化します。ログは単なる「記録」ではなく、アクセスの適切性を継続的に判断するための重要な情報基盤として捉えられるようになります。

 ゼロトラストでは、すべてのアクセスを潜在的なリスクとして扱い、その都度検証を行うことが前提となります。この検証を支えるためには、単にアクセスの事実を記録するだけでなく、状況や文脈を含めた情報を継続的に把握することが不可欠となります。

 具体的には、ログに求められる情報は次のような観点へと広がっていくと考えられます。

  • 利用者の属性情報
    誰が操作したのか、どの権限でアクセスしていたのか
  • アクセス環境の情報
    どの端末・どの場所・どの経路から接続していたのか
  • 操作内容の詳細情報
    どのデータに対して、どのような操作が行われたのか
  • アクセスの継続的な変化を示す情報
    通常とは異なる操作の頻度やパターンの変化

 このように、ログは「事後確認のための情報」から、「リアルタイムでアクセスの適切性を支える情報」へと役割が拡張していきます。

 また、ゼロトラストでは継続的な検証が前提となるため、ログは単体で存在するのではなく、認証情報、端末状態、アクセス内容など複数の情報と組み合わせて活用されることが重要になります。つまり、ログはセキュリティ対策の補助的な存在ではなく、アクセス管理の基盤の一部として位置づけられるようになるといえます。

 このような変化は、ログの取得方法や活用方法にも大きな影響を与えます。では、ゼロトラストの実践において、どのようなログの設計や活用の考え方が求められるのでしょうか。

 

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 前章で述べたように、ゼロトラストにおいてログは、単なる記録ではなく、アクセスの適切性を継続的に判断するための情報として位置づけられます。

 この考え方を実務に落とし込むうえで重要となるのが、「ログを何のために取得するのか」という目的の整理です。従来は、インシデント発生後の調査や監査対応を想定した証跡の確保が主な目的とされてきました。しかしゼロトラストでは、ログは「現在のアクセスが適切かどうかを判断するための材料」として活用されることが前提となります。

 この視点の違いは、ログ設計の考え方にも影響します。単に記録を残すのではなく、「アクセスの正当性を評価できる情報が含まれているか」という観点から取得項目を検討することが重要になると考えられます。

 具体的には、ログを判断材料として活用するためには、次のような視点が求められます。

  • アクセスの正当性を評価できる情報が含まれているか
    誰が、どの権限で、どの情報資産にアクセスしているのかを把握できなければ、適切なアクセスかどうかを判断することは困難です。
  • 操作の文脈を理解できる粒度になっているか
    単なるログイン履歴だけではなく、どのデータに対してどのような操作が行われたのかまで把握できることが重要になります。
  • 不審なアクセスの兆候を捉えられる構造になっているか
    通常とは異なるアクセス頻度や操作パターン、時間帯の変化などを継続的に把握できることが、早期の気づきにつながると考えられます。

 このような情報を継続的に把握できる状態が整うことで、アクセスの妥当性を日常的に評価することが可能になります。特に内部不正対策の観点では、「権限があるかどうか」だけではなく、「そのアクセスが業務として適切か」という視点で判断することが重要になるとされています。

 また、ログを判断材料として活用するためには、取得しているだけで終わらせない運用も不可欠です。ログ分析を通じてアクセスの傾向を把握し、異常の兆候を早期に捉える体制を整えることが、ゼロトラスト時代のログ運用の特徴といえるでしょう。

 前章で整理したように、ゼロトラストにおいてログは「アクセスの正当性を判断するための材料」として活用されることが重要です。しかし、膨大なアクセス情報や操作履歴を人手だけで継続的に評価することは容易ではありません。

 そこで重要となるのが、アクセス状況を可視化し、ログを判断材料として活用できる仕組みです。こうした体制を整えることで、次のようなメリットが得られます。

  • アクセスのリアルタイムモニタリング
    ユーザーや端末ごとのアクセス状況を一元管理し、通常とは異なる操作や不審なパターンを迅速に把握できます。
  • データアクセスの可視化
    誰がどの情報資産にどのようにアクセスしているかを記録・分析することで、内部不正の兆候を早期に捉えることが可能です。
  • 継続的なリスク評価と異常検知
    ログを単なる証跡ではなく判断材料として活用し、アクセスの妥当性を日常的に評価できます。平常時と異なる操作や、普段アクセスしない情報資産へのアクセスなども把握できると、内部不正や情報漏洩の早期発見につながります。

 実務上は、こうしたツールを通じてアクセスログと認証情報、端末状態、操作内容などの情報を組み合わせることで、ゼロトラストの思想を日常の運用に落とし込むことができます。

 BlackBoxSuiteでは、データアクセスに関するログを詳細に記録・分析し、アクセス状況をリアルタイムで監視できる機能を備えています。これにより、内部不正の兆候を見逃さず、情報漏洩を未然に防ぐ多層的なセキュリティ対策を支える仕組みとして活用することが可能です。

 

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 ここまで見てきたように、ゼロトラストの考え方では、アクセスの妥当性を継続的に評価する運用がセキュリティの基盤となります。従来のログ運用が「証跡の確保」「事後調査のための記録」に重点を置いていたのに対し、ゼロトラストではログは判断材料として活用する情報へと再定義されます。

 具体的には、次の視点が重要です。

  • アクセスの正当性を評価できるログの取得
    誰が、どの権限で、どの情報資産にアクセスしているかを把握できること。
  • 操作の文脈や通常と異なるアクセスの把握
    単なるログイン履歴だけでなく、操作内容やアクセスパターンの変化を追跡できること。
  • 日常の運用に組み込んだ評価体制
    ユーザーや端末の属性、操作内容、アクセス状況の変化など多角的な情報を組み合わせ、日常的にアクセスの妥当性を判断できる仕組みを整えること。

 これらを踏まえることで、内部不正や情報漏洩の兆候を早期に捉え、未然に対処することが可能となります。ゼロトラストを実現するためには、単なるツール導入ではなく、ログを日常の運用の中で判断材料として活用できる体制を整えることが不可欠です。

 実務の現場では、今回紹介したような仕組みや運用の考え方を整理することで、自社のアクセス管理や内部不正対策の優先度や具体的な取り組み方を明確にできます。まずは、自社で取得しているログや運用体制を見直し、ゼロトラストの思想に沿った評価の視点を取り入れることが、次の一歩となるでしょう。

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