コラム

情報漏洩発生時の対応実務マニュアル:初動対応から報告・調査まで
情報漏洩発覚時、すぐに動けますか?
万が一、組織内で個人情報や機密データの漏洩が疑われる事態が発生したとしたら、あなたのチームはすぐに適切な対応を取れるでしょうか。
現場が混乱し、誰が何をすべきか不明なまま時間が経過する――こうした事態を避けるためには、事前の準備と正確な対応手順の理解が不可欠です。
本コラムでは、情報漏洩が発覚した際に企業が取るべき「初動対応」から、法的な報告義務、原因調査、関係者への説明対応、そして再発防止策まで、実務上欠かせない一連のプロセスを解説します。
目次
1.情報漏洩が発覚したときに直面する課題
情報漏洩は、突然発覚することが少なくありません。従業員からの内部通報、取引先からの指摘、あるいはシステムの不正アクセス検知など、発覚の契機はさまざまです。しかし、どのような形であれ、「インシデントが疑われる」段階から企業には迅速な対応が求められます。
このとき、最も多くの現場で見られるのは、「何から手を付ければよいかわからない」という混乱です。組織内に明確なインシデント対応フローがなければ、責任の所在が曖昧になり、対策が後手に回ってしまいます。
情報漏洩時には「初動対応の遅れ」が被害の拡大や信用の失墜を招くリスクとなります。まずは、何を・誰が・どの順序で実行すべきかを整理した対応フローの整備が重要となります。

2.情報漏洩発覚後の初動対応フロー
インシデントの発覚直後にとるべき行動は、状況の把握と被害拡大の防止です。以下は、一般的な初動対応のフローです。
(1)事象の確認と一次報告
漏洩が疑われる情報や事象について、情報システム部門やCSIRT(Computer Security Incident Response Team)などが速やかに事実確認を実施し、上層部やCISOへ迅速に報告します。
(2)被害拡大の防止措置
情報漏洩の疑いがある経路(例:不正アクセスが疑われるアカウントや、流出元の可能性があるファイルサーバなど)に対て、アクセス遮断、ファイル共有の停止、ネットワークの一時切断などを含めた緊急措置を実施します。
(3)インシデントチームの編成と役割分担
情報システム、法務、広報、人事部、経営層を含めたインシデント対策本部を構成し、調査・報告・対外対応の役割を整理します。
(4)証拠保全とログ収集の開始
操作ログ、ネットワークログ、端末ログ、アプリケーションログなど、後の原因特定に必要なデータの保全と収集を開始します。
ここで重要なのは、対応の全工程で「誰が・何を・いつ・なぜ行ったか」を記録として残すことです。後述する法的報告や社外説明時の「証跡」として極めて重要になります。
3.日本の個人情報保護法における対応義務
2022年4月の改正個人情報保護法により、情報漏洩が発生した際の「報告・通知義務」が強化されました。以下は企業が遵守すべき主な義務です。
(1)個人情報保護委員会への報告義務
漏洩、滅失、毀損のいずれかが疑われる場合で、かつ以下の条件に該当する事案については、原則として「速報(できるだけ速やかに)と確報(30日以内の詳細報告)」の提出することが義務付けられています。
- 要配慮個人情報の漏洩
- 不正アクセス等にとよる漏洩の可能性
- 漏洩件数が1000件を超える
- 財産的被害等につながる可能性のある情報
(2)本人通知義務
上記のような漏洩が発生した場合は、対象となる本人に対しても通知することが求められます。通知には形式や内容に関する一定の基準があり、漏洩した情報の種類や被害の可能性、実施した対応策、問い合わせ先などを明記しなければなりません。通知は、メール・郵送・Web掲載など確実に本人に届く方法で行う必要があります。
なお、報告義務は「漏洩が確定した場合」に限らず、「そのおそれがある場合」でも該当する可能性があるため、初動段階から慎重な判断が求められます。

4. 情報漏洩が発覚した理由と経緯
原因調査において最も重要な情報源となるのは「ログ」です。情報漏洩の原因を特定するためには、「誰が」「いつ」「どのように」情報にアクセスしたかを詳細に追跡できるログが不可欠です。
適切なログ調査を行うことで、「どの端末が」「いつ」「どのデータに」「どのようにアクセスしたのか」を明確に把握することが可能となります。
(1)有効なログの種類
- 操作ログ(ユーザーの操作履歴)
- アクセスログ(ファイルやデータへのアクセス記録)
- ネットワークログ(通信の送受信履歴)
- 認証ログ(ログイン試行・成功・失敗)
- データベースログ(DBへの問い合わせ・更新記録)
(2)ログ管理の実務上のポイント
- ログの粒度を明確にし、「誰が、いつ、何のデータに対して、何をしたか」を確実に記録
- ログの保管期間は少なくとも6か月以上を推奨
- 改ざんを防ぐためにログの完全性(改変不可)を担保
- ログの一元管理と迅速な検索性を担保できる体制を整備
これらが整っていれば、漏洩経路の特定や調査根拠としての資料作成が迅速かつ精度高く進められます。
BlackBoxSuiteでは、「誰が」「いつ」「どのデータに対して」
「どのような操作をしたか」を詳細に記録します。

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5.関係者対応と社外説明責任の実務
情報漏洩への対応は、技術的解決だけでなく、透明性のある説明責任を果たすことが求められます。特に以下の関係者に対して、適切な情報提供と説明を行う必要があります。
(1)経営層への報告
事案の全体像、法的リスク、対応方針、安全性の確保手段などを 定量的に報告し、経営判断を仰ぎます。
(2)取引先・顧客への説明
契約関係や信頼関係を維持するため、情報漏洩に対する事実経過・影響範囲・対応措置・再発防止策を明示して謝罪と説明を行います。
(3)本人通知の実施
漏洩対象となる個人に対して、影響内容や今後の対策、問い合わせ先などを明確にした通知内容と 郵送・メール・Web公開など適切な手段を検討し、誠意ある対応を行います。
(4)メディア対応と広報戦略
報道機関による報道前に自社から積極的に公表することが、信頼回復の第一歩となることもあります。法務と広報が連携して対応方針を統一することが重要です。

6. 情報漏洩に備えるための事前準備とは
情報漏洩というインシデントは予測困難ですが、情報漏洩の発覚後に慌てないためには、平時からの備えが不可欠です。以下のような体制・ルール・ツールの整備が有効です。
(1)インシデント対応マニュアルの整備
「初動対応」「報告義務」「調査手順」「報告テンプレート」「関係者連絡先」を文書化し、全社で共有します。
(2)CSIRTなどの専門チーム設置と明確な役割定義
対応体制を明文化し、関係部署との連携フローを整備しておくことで対応品質が向上します。
(3)ログ取得・保存ポリシーの策定
必要なログの取得範囲・粒度・保存期間・保全手段を明確にし、監査対応に備えます。
(4)定期的な演習・教育の実施
模擬漏洩演習や机上演習によって、対応スキルと判断力を組織的に高めます。

7. 再発防止策としての是正措置と教育訓練
情報漏洩の発生後は、原因特定にとどまらず、再発防止に向けた具体的な対策と教育の実施が不可欠です。
(1)技術的対策の見直し
アクセス制御の最適化、二要素認証の導入、外部持ち出し制限、ログの日常的かつ継続的な監視など、再発を防ぐための技術的な見直しが求められます。
(2)人的・組織的な対策
従業員教育の強化、セキュリティ意識の向上、外部委託先との契約見直しなど、組織全体での再評価が必要です。
(3)再発防止計画の策定と共有
対外報告にも活用できるような「是正措置・再発防止策の文書化」を行い、全社的に共有します。

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BlackBox Suiteは、多くの実績を持つ情報漏洩対策ソリューションです。
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