コラム

金融業界における情報漏洩対策ガイドラインのポイントと実践
金融業界での情報漏洩対策の重要性
金融業界では、顧客の資産や個人情報を取り扱うため、情報漏洩リスクの管理は極めて重要です。皆さまの組織では、最新のガイドラインや法令を踏まえた情報漏洩対策を実施できていますでしょうか?
もしも情報漏洩が発生した場合、金融庁や個人情報保護委員会からの監督強化や社会的信用の低下など、深刻な影響が避けられません。
本コラムでは金融業界における情報漏洩の実例や、最新のガイドラインに基づく情報管理体制のポイント、実務に役立つ対策について詳しく解説します。
目次
1.金融業界における情報漏洩の実例
金融業界では多くの機密情報を取り扱うため、情報漏洩事件が発生すると社会的影響が大きくなります。ここでは、最近の代表的な事例を二つ紹介します。
① 銀行と証券会社間での不適切な顧客情報共有事案
2024年6月、金融庁が公表した事例では、三菱UFJ銀行と三菱UFJモルガン・スタンレー証券の間で顧客情報が適切な手続きを踏まずに共有されていたことが明らかになりました。両社は顧客の同意や利用目的の限定など、個人情報保護法に基づく基本的な規定を遵守していなかったため、内部統制の不備が指摘されています。この事案は、金融機関間の情報連携においても厳格な管理が求められることを示しています。
出典:金融庁
「銀証間における不適切な顧客情報共有に関する報告」
https://www.fsa.go.jp/news/r5/shouken/20240624-2/20240624.html
② 東京海上日動火災保険における顧客情報の漏洩
2024年5月、東京海上日動火災保険の従業員が、顧客情報を保険代理店および他の損害保険会社(乗合損保)に漏えいしていたことが判明しました。漏洩した情報には、顧客の氏名、証券番号、保険の種類などが含まれていました。主な原因として、個人情報保護法に関する知識やリスク認識の不足、適切な指導・支援の欠如が挙げられています。
出典:東京海上日動火災保険株式会社
「保険代理店および保険会社間のメール連絡に伴う情報漏えいに関するお詫び」
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/240523_01.pdf
これらの事例に共通するのは、情報管理に関する規定の遵守不足や、従業者管理・内部統制の不備により、情報漏洩リスクが顕在化した点です。
2章以降では、こうした規定遵守の重要性を踏まえ、金融業界で求められる情報管理体制の整備や安全管理措置、実務での具体的な対策について詳しく解説していきます。
2.金融業界で求められる情報管理体制の概要
金融機関は、顧客の資産や個人情報を取り扱うため、厳格な情報管理体制を整備することが求められます。具体的には、以下の点が重要です。
- 適正な取得・利用・提供
顧客情報は、その取得目的を明確にし、同意を得た範囲内でのみ利用・提供されなければなりません。 - 安全管理措置の実施
個人情報の漏洩、紛失、改ざんを防止するため、技術的・組織的な対策を講じる必要があります。アクセス制御やログ管理、暗号化、物理的管理などが含まれます。 - 委託先の管理
外部委託する場合は、委託先が適切な安全管理措置を講じているかを監督し、契約上も義務付けます。 - 従業者の教育・監督
情報漏洩リスクを軽減するために、従業者への定期的な教育や遵守状況の監督が不可欠です。 - インシデント対応体制の構築
万が一漏洩等の事案が発生した際に速やかに対応し、金融庁等への報告義務を果たせる体制が必要です。

3.金融分野における個人情報保護ガイドラインの「概要」と「法的意義」
金融分野における個人情報保護に関するガイドライン(個人情報保護委員会・金融庁、2024年3月)は、個人情報保護法および関連法令を基に、金融機関や関連事業者が個人情報を適切に取り扱うための具体的な指針を示しています。
ガイドラインには、法律の一部としての効力を持つ遵守事項と、法令上の義務ではない推奨事項があります。遵守事項は違反すると法的責任が問われる可能性があります。推奨事項は義務ではありませんが、金融業界の特性を踏まえ、実務上は厳格な対応が求められます。
金融機関等の事業者は、法的義務を遵守するだけでなく、推奨される安全管理措置についても積極的に取り組み、顧客情報の保護に努める必要があります。
以下はガイドラインの内容の一部です。
- 個人情報の取得、利用、提供、管理の基本方針
‐個人情報は、利用目的をできる限り特定して取得し、利用目的の範囲内で取り扱わなければならない(遵守事項)
‐特定の個人情報の利用目的が、法令等に基づき限定されている場合には、その旨を明示することとする(推奨事項)
‐個人情報保護に関する考え方及び方針に関する宣言(プライバシーポリシー等)を策定し、公表することとする(推奨事項) - 漏洩や滅失等を防止するための安全管理措置
‐個人データの漏えい等の防止その他の個人データの安全管理のため、安全管理に係る基本方針・取扱規程等の整備及び
安全管理措置に係る実施体制の整備等の必要かつ適切な措置を講じなければならない(遵守事項) - 委託先の適切な管理
‐個人情報の取扱いを委託する場合、委託先において安全管理措置が講じられるよう監督しなければならない(遵守事項)
‐委託契約に定める安全管理措置等の遵守状況については、当該安全管理措置等の見直しを検討することを含め、適切に
評価することが望ましい(推奨事項) - 従業者の教育・監督
‐従業者に対して個人情報保護に関する必要な教育や監督を行わなければならない(遵守事項) - 事故発生時の迅速な対応と報告
‐個人データの漏えい等が発生、もしくは発生の恐れがあることを把握した際には、関係法令に基づき、個人情報保護委員会
及び監督当局、当該個人に報告しなければならない(遵守事項)
‐当該事態の内容等に応じて、被害の拡大防止、事実関係の調査、影響範囲や原因の究明、及び影響範囲の特定など、必要な
措置を講じなければならない(遵守事項)
出典: 個人情報保護委員会・金融庁
「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/240312_kinyubunya_GL.pdf
4. ガイドラインに基づく安全管理措置の「実務指針」
次に、「実務指針」をご紹介します。個人情報保護委員会・金融庁による「金融分野における個人情報保護ガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」(2024年3月)では、安全管理措置の具体的な実施方法が詳細に示されています。
- 基本方針・取扱規程等の整備
安全管理に関する基本方針や、取得・利用・保管・送信・廃棄・漏えい対応など各段階の取扱規程を策定・遵守し、定期的に見直します。 - 組織的安全管理措置
管理責任者の設置、就業規則への明記、取扱状況の点検・監査、漏えい等の対応体制を整備します。 - 人的安全管理措置
従業者との非開示契約、役割・責任の明確化、教育・訓練、手続き遵守状況の確認を行います。 - 物理的安全管理措置
取扱区域の入退室管理、機器・媒体の盗難防止や廃棄時の適正処理、持ち運び時の漏えい防止策を講じます。 - 技術的安全管理措置
利用者識別・認証、アクセス制御、権限管理、アクセス記録の保存・分析、システムの監視・監査を行います。
出典: 個人情報保護委員会・金融庁
「金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの 安全管理措置等についての実務指針」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/zitsumushishin_240312.pdf

5.実務における情報漏洩対策の優先順位と具体策
とはいえ、限られたリソースの中で、効率的にこれらの情報漏洩対策を進めるためには、優先順位を明確にすることが重要です。その一例を以下に示しておきます。
- 情報資産の洗い出しとリスク評価
顧客情報や取引データなど、金融業務における重要情報の所在を把握し、漏洩リスクの高い箇所を特定します。 - アクセス権限の適正化
最小権限原則に基づき、必要最低限のアクセス権限を付与し、定期的に見直します。 - ログ管理・監査証跡の整備
情報アクセスの記録を取得・保管し、不審なアクセスや操作を検知できる体制を構築します。 - 従業者教育の強化
情報管理の重要性や遵守すべきルールを周知し、定期的な訓練を実施します。 - 委託先管理の徹底
クラウドサービスやアウトソース先の安全管理状況を定期的に監査し、契約に基づく管理を行います。 - インシデント対応体制の整備
漏洩発生時の対応フローを策定し、訓練を通じて迅速な対応力を養います。
6.実務における情報漏洩対策の優先順位と具体策
さらに、行政機関による監督監査や外部監査法人、内部監査部門、取引先などによる調査に円滑かつ確実に対応するために、監査証跡と報告体制の整備が重要になります。具体的な対策を示しておきます。
- 監査証跡の整備
‐いつ、誰が、どの情報にアクセス・操作したかを記録するログをシステムで自動取得
‐ログの保管期間・改ざん防止策を明確化し、監査時に即時提示可能な状態に維持 - 報告体制の明確化
‐インシデント発生時の報告フロー(現場 → 上長 → 情報管理責任者 → 金融庁等)を明文化
‐各段階の責任者を指定し、連絡先・代行者も明示 - 定期的な内部監査
‐情報管理体制の有効性を年1回以上検証
‐監査結果を記録・報告し、改善策の実施状況を追跡 - 最新情報の収集と迅速な社内展開
‐ガイドライン改訂、監督方針の変更、注意喚起等の公式情報を定期的にモニタリング
‐必要な情報を関係部門へ即時共有し、規程・運用へ反映
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7. まとめ:金融業界で求められる適切な情報漏洩体制の確立
金融業界においては、顧客情報の安全確保と法令遵守が不可欠であり、情報漏洩対策は組織の信頼維持に直結します。近年の事例からも明らかなように、内部関係者による情報の持ち出しや不適切な共有は依然として重大なリスクとして存在しています。
金融庁や個人情報保護委員会が示す最新のガイドラインや実務指針を踏まえ、適切な情報管理体制の構築、安全管理措置の実践、従業者教育の徹底、委託先管理の強化、そしてインシデント対応体制の充実が強く求められています。
また、監査証跡の確実な管理と報告体制の整備により、金融庁などの行政機関だけでなく、外部監査法人や内部監査部門、取引先による調査・監査にも迅速かつ的確に対応できる体制を確立することが不可欠です。
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