読むのにかかる時間
 ・約6〜7分
 
読むことで得られる知識  
 ・サプライチェーン全体でセキュリティ評価が求められる背景と実務上の課題
 ・「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」の目的と制度の位置づけ
 ・「可視化」および段階評価(★3・★4・★5)が示す考え方と、自社の対策水準の捉え方
 ・評価制度を活用する際のポイント

 サプライチェーンを通じたサイバーインシデントは、特定の企業だけでなく、取引関係全体に影響を及ぼすリスクとして認識されるようになっています。一方で、発注側は取引先のセキュリティ対策状況を把握しにくく、受注側も取引先ごとに異なる要求への対応に負担を感じているのが実情です。

 こうした課題に対し、経済産業省は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」の制度構築方針を示しました。

 本コラムでは、本制度の背景や考え方、制度の仕組みを整理し、企業がどのように理解・活用すべきかを解説します。

 近年、サイバー攻撃は、直接の標的となる企業だけでなく、その取引先にも影響を及ぼす事例が増えています。そのため、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策を強化することが求められています。

 こうした中で、発注企業は取引先のセキュリティ対策の状況を外部から把握しにくく、チェックリストなどを用いた要求の妥当性を確認することが難しい状況です。

 一方、委託先企業は、複数の取引先から異なる要求を受けることで、特に中小企業を中心に過度な負担が生じやすい現状があります。

 こうした課題を解決するため、経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室では、サプライチェーンにおける重要性を踏まえ、各企業が満たすべきセキュリティ対策を提示するとともに、その状況を可視化する仕組みとして「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」の検討を進めています。

 本制度の目的は、企業を序列化したり、セキュリティ対策の優劣を競わせることではありません。サプライチェーンにおけるリスクを対象として、各企業の立ち位置に応じた必要なセキュリティ対策を提示し、その状況を可視化する「ものさし」を提供することにあります。

 具体的には、制度により以下の効果が期待されています。

  • 自社の対策水準を判断しやすくする
    段階★ごとに必要な対策項目が整理されており、自社の現状と目標水準を把握しやすくなります。
  • 発注企業と委託先企業が同じ基準で対策状況を説明・確認できる
    2社間の取引契約等において、発注企業は委託先企業に適切な段階★を提示し、実施状況の確認や対策の促進を行うことが想定されています。再委託先は直接管理対象ではありませんが、委託先を通じて必要に応じて管理されることも含まれます。
  • サプライチェーン全体のセキュリティ水準の底上げ
    特に中小企業は限られたリソースの中で自社リスクを踏まえた対策を行うことが難しい場合があり、本制度により共通して求められる対策を整理して示すことで、容易かつ適切に必要な対策を決定できるようになります。

 本制度の活用により、形式的なチェックリストの確認に留まらず、企業間での理解や対話を通じて、サプライチェーン全体のセキュリティ水準向上につなげることが期待されています。

 制度で重視される「可視化」とは、単に対策の有無を確認することではありません。重要なのは、企業がどのような考え方で対策を行っているか、どの水準を目標にしているかを、共通の枠組みで整理することです。

 これにより、
 ・発注企業は取引先に対して過度な要求や曖昧な要請を避けやすくなり
 ・委託先企業は自社の対策状況を客観的に説明しやすくなる
 といった効果が期待されます。

 形式的なチェック対応ではなく、実態に即した対話と改善を可能にする点が本制度の特徴です。

 

 サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度では、企業の対策状況を整理・可視化するために、複数の段階(★)が設定されています。これは序列や優劣を示すものではなく、「現在の対策状況」と「目標水準」を整理するための目安です。

  • ★3:共通基盤レベルの基本的対策
    サプライチェーン全体で求められる最低限のセキュリティ水準。基本的な管理や権限設定、社員教育などを含みます。
  • ★4:標準的な管理・運用レベル
    ガバナンスやインシデント対応も含めた、より体系的な対策を目指す段階。発注企業・委託先間での対話や確認が可能な水準。
  • ★5:高度なリスク管理レベル
    国際規格や高度なリスク評価を踏まえた長期的到達目標としての対策水準。全ての企業が即時到達する必要はありません。

 段階評価は、サプライチェーンに関わる企業が自社の対策水準と目標を整理し、今後の改善計画を検討するための共通の指標です。各段階は必ずしも順序通りに達成する必要はなく、企業の規模や役割に応じて柔軟に適用できます。これにより、企業は自社の役割やリスクに応じて適切な段階を選択し、無理なく継続的な改善につなげることが可能になります。

 

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 評価は、企業が希望する段階に応じて、自己評価や第三者評価を組み合わせて実施される想定です。評価結果は登録・表示され、取引の場面で活用されることが想定されています。

 制度で評価される対象や具体的な対策は以下の通りです。

  • 評価対象
    企業のIT基盤(クラウドサービスや社内ネットワークを含む)
    – 製造現場の制御システムや製品そのものは対象外(別制度で整理)
  • 評価の考え方
    各企業のサプライチェーンにおける位置づけと想定リスクに応じて必要な対策を示す
    企業間の比較や優劣を目的とせず、自社の対策状況を整理・可視化する枠組みとして利用
  • 段階別に示される対策例
    ★3:基本的な情報管理、アクセス制御、従業員教育
    – ★4:運用・監査の体制整備、インシデント対応計画の策定
    – ★5:リスク分析に基づく高度な対策、国際規格への準拠、長期的戦略策定

 このように、評価制度は単なるチェックリストではなく、各企業が自社の役割やリスクに応じて必要な対策を整理・可視化するための枠組みです。段階別の対策例を参考に、自社の現状と目標を明確にすることで、実務上の改善計画や取引先との対話に活用できることが、本制度の大きな特徴といえます。

 本制度は、評価を取得すること自体を目的とするものではなく、企業が自社のセキュリティ対策の現状を整理し、取引先や社内で共通認識を形成するためのツールとして活用されます。評価結果は、企業間の対話や社内の改善計画に具体的に役立てることが期待されています。

 具体的には以下のような活用が考えられます。

  • 発注企業においては、取引条件の目安として特定の段階を示し、委託先が対策を実施しているか確認する材料として活用
  • 委託先企業においては、自社のセキュリティ対策状況を整理し、発注元や取引先に説明する際の資料として利用
  • 社内では、自社の現状を棚卸しし、中期的な改善計画や経営層への報告資料作成に活かす

 また、本制度は既存のガイドラインや法令を置き換えるものではなく、補完的な整理軸として位置づけられています。複数のガイドラインが併存する中でも、自社の取り組みを一貫して説明する手段として活用でき、社内外の関係者との対話を円滑に進める役割を果たします。

 サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度は、企業に対して一律の義務を課すものではなく、段階的に対策状況を整理・可視化・共有する共通フレームとして設計されています。

 企業に求められるのは、評価を取得することではなく、自社の現在地と目標水準を明確にし、取引先や社内に説明できる状態をつくることです。

 評価取得はあくまで手段であり、自社のリスクや役割に応じて適切な段階を選び、継続的な改善につなげることが実務での活用のポイントです。また、制度の考え方を理解し、今後の制度動向を注視しながら自社の備えを見直す契機とすることが求められます。

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